「承認」の不調はなぜおこるか
クライアントが持っている「すばらしいもの」にコーチとして気づいたら、コーチは「承認」のスキルを使って、クライアント自身が自分の持っている「すばらしいもの」に気付くことを支援するのです。
=プラス方向での「承認」です。
「ほめる」ということがこれにあたります。
また、コーチとして、クライアントの「変えたほうがいいこと」に気づいたら、それについてもコーチとしては「承認」のスキルを使って、クライアント自身が自分で「変えたほうがいいこと」に気付くことを支援するのです。
=プラス方向に向けるためのマイナス方向での「承認」です。
「叱る」ということがこれにあたります。
「承認」の不調は、「承認」の意味を単純に「ほめればいい」ということと理解していることから生じていることが多いものです。
クライアントに自発的行動を促すことがコーチングの目的であり、そのためにはクライアントにとにかくいい気持ちで前向きな人間になってもらいたいと考えているコーチは、相手を「ほめる」ことを重要視し、「承認」を行い、その不調に首をかしげるのです。
「承認」を行うことは、決して間違っていない、「承認」のスキルの使い方がまちがっているだけです。
今までの厳しい自分というものの反省から、急にやさしい、物分りのいい、人をほめるコーチへと変わらなければいけないと手のひらを返すように、相手を「ほめちぎる」ことをすることが問題なのです。
たしかに相手を「ほめる」ことは、「承認」の重要な要素であるが、相手を「ほめる」ことは「あまやかすこと」、「増長させること」とは違うのです。
「承認」不調の原因
- 1.コーチが「承認」を行う環境になっていない。
- (1)個人の力量、実績ではなく、その地位により評価されています。
- (2)人を押しのけてでも自分が伸びていこうとする競争優位の世界です。
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2.コーチがクライアントのために「承認」を行う考えになっていない。
- (1)とにかくおだてて部下を動かそうとしています。
- (2)コーチングのスキルとして「承認」をしなければいけないと思っています。
- (3)とってつけたように顔さえ見れば相手をほめています。
- (4)ほめるところのないと思っている者に対してもなんとかほめようとしています。
- 3.クライアントが「承認」を受ける状況になっていない。
- (1)別にほめられるようなことなどやっていないと思っています。
- (2)上司がほめたときは、何か含むところがあるはずだと疑心暗鬼になっています。
- (3)面と向かってはほめてくれるが、影では何を言われているかわかったものではないと思っています。
- (4)一見ほめられているようだが、皮肉を言われているような気がしています。
「承認」不調への対応
- 1.コーチが「承認」を行う環境づくり。
- (1)地位にいるからということではなく、個人の力量、実績を評価します。
- (2)ビジョンを共有化し共生していくことを大事にします。
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2.コーチがクライアントのために「承認」を行う気持ちになります。
- (1)部下のいい点を率直に認め、心から「承認」しています。
- (2)コーチングのスキルだから行うのではなく、相手がいい点を気付くために行うものであると考えています。
- (3)TPOに応じて、相手をほめるように心がけています。
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(4)どんな人でも必ずほめるところはある。
無理に探さなくても自然と出てくるものであると考えています。 - 3.クライアントが「承認」を受ける状況にします。
- (1)自分のやっていることをしっかりと見ていてくれる人がいると張り合いが出ると考えています。
- (2)自分のやっていることを認めてもらえればうれしいと考えています。
- (3)分け隔てなく、公平に認めてもらえているのが好ましいと考えています。
- (4)心から認めてもらっているので、やる気が出ると考えています。
「承認」を効果的にするために
日本人は一般的に相手を「ほめる」ことが苦手だと言われています。
地位・立場が上に行けばいくほど人をほめなくなります。
自分の沽券にかかわると思っているのか、相手を「ほめる」ことをやらなくなるものです。
また、相手をほめたとしても、相手の反応が芳しくないと思うことがあります。
そのときの「承認」行為は、相手のためではなく、自分のために行われているのです。
「承認」は「相手」のためにすることであって、「私」のためにすることではありません。
自分の持っているすばらしいものに気づいていない人が多いので、それを「承認」という形で気づかせてあげるのです。
コーチから「承認」されることによって、クライアント自身が自分のやっていることを認識し、その意味を考え気付くのです。
クライアントのモチベーションが高くなりコーチングの効果が出てくるのです。
日本人は、面と向かって自分の気持ちをいうのは苦手です。
相手をほめるときにもその苦手意識がでてくるものです。
わざわざ言わなくても「阿吽の呼吸である」とか、「言わなくても私の気持ちはわかっているだろう」とか考えがちになるのです。
しかしながら、「承認」しない限り、相手はわからないものと考えましょう。
Iメッセージを使って、クライアントを「承認」することを心がければ、コーチの気持ちはクライアントに伝わるものです。
照れないで率直にコーチの気持ちを表現するIメッセージを使うことです。
コーチングスキルだから「承認」するのではありません。
心から「承認」することです。
それゆえ無理やり探し出す必要はありません、だれでも必ずほめるところはあります。
相手のいい点を認めるように常に心がけていれば必ず「承認」することになります。